長年こり固まったトリガーポントをほぐすには縮んだ筋肉の血流を促し硬直を除く「テーピング」が著効
●その場でしびれや痛みが消える
私は、これまでに多くの患者さんを診療してきた経験から、整形外科領域のしびれや痛みのこりを伴う痛みの発生源「トリガーポイント」にあると考えています。
実際に、トリガーポイントをほぐす治療を行うと、難治性の坐骨神経痛や腰痛、首や肩のしびれであっても、てきめんによくねる症例が多いのです。
当院で行う具体的なほぐし方は、トリガーポイントに局所麻酔薬を注射する「トリガーポイント注射」と、筋肉に沿って粘着テープを貼る「トリガーポイントテーピング」です。 トリガーポイントテーピングはキネシオテーピング(伸縮性のあるテープを使った両方)の創始者である加瀬健三氏のテーピング理論をもとに、私が考案したものです。テーピングというと、伸縮性のないテープを用いて間接を固定・保護するイメージが強いかもしれません。しかし、私が行うトリガーポイントテーピングでは伸縮性のあるキネシオテープを用います。これをトリガーポイントの生じている筋肉に沿って肌に貼ると、途端に体が動かしやすくなり、筋肉の緊張が取れてしびれや痛みまでその場で和らぐことが多々あるのです。
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トリガーポイントのある筋肉に沿ってテーピングを貼っている間は、テープの力で皮膚が引っぱられ、皮下と筋肉の間に一定の余裕ができ、血液やリンパ液の流れが継続的によくなる。その結果、発痛物質が速やかに排出されるので痛みが和らぎ、トリガーポイントがほぐれる。また、トリガーポイントテーピングは筋肉の動きを助け痛みの伝達を妨げる。
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●狭窄症やヘルニアの原因も筋肉にあった
整形外科では、通常レントゲンやMRI(磁気共鳴断層撮影)などの検査画像から変形性間接症や椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症といった病名をつけて、それに沿った療法(薬物療法、理学療法、神経ブロックなど)を行うのが一般的です。
ところが、現実には、そうした治療を受けてもなかなか治らない、あるいは、よくなっても再発をくり返してしまう人が少なくありません。これは、痛みの原因が、画像に映った関節の異常にあると理論づけて治療しているからです。
私は、このような目に見える障害は痛みやしびれのきっかけにすぎないと考えています。 障害が起こると、周辺の筋肉が緊張して血液やリンパ液(細胞から余分な水分や老廃物を運ぶ透明の液)の流れが悪くなり、筋肉が攣縮(スパズムという)を起こして硬直します。その状態が続くとトリガーポイントが出現します。するとさらに血流が悪化し、筋肉内の発痛物質がどんどんたまってしまい、しびれや痛みを引き起こすと見ているのです。
例えば、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症と診断された人は、お尻の中殿筋や腰の脊柱起立筋にトリガーポイントができやすく、そのせいで足腰がしびれたり痛んだりしているのです。
●痛みを解消する三つの効果
こうした筋肉の緊張を和らげてしびれや痛みを解消するのが、テーピングです。トリガーポイントテーピングには、以下の三つの効果が期待できます。
一つめは、血流促進効果です。トリガーポイントのある筋肉に沿ってテープを貼っている間は、テープの力で皮膚が引っぱられるため、皮下と筋肉の間に一定の余裕ができ、血液やリンパ液の流れが継続的によくなります。
その結果、発痛物質が速やかに排出されるので、痛みが和らいできます。
二つめは、筋肉アップ効果です。伸縮性のあるテープが衰えた筋肉の動きを助けてくれるので、筋肉を動かすと効率よく鍛えれるようになります。
筋力がつけば、骨格のズレやゆがみが矯正され、正しい姿勢を維持したり、関節の柔軟性や可動域(動かせる範囲)を保ったりすることにつながります。
そうなれば、発痛物質の発生も抑えられるでしょう。
そして三つめは、ゲートコントロール効果です。私たちは手足などをぶつけたときに、無意識に痛い部分を手でなでる動作をします。
これは手でなでるというやさしい刺激によって、強い痛みの刺激の通り道(ゲート)をふさぐしくみを利用した体の条件反射で、これにより脳の痛みの感じ方が緩和されます。トリガーポイントテーピングを行うと、その部分にこれと同じ効果が働くため、痛みが和らいだように感じるのです。
以上のようにトリガーポイントテーピングを行えば、縮んで硬直した筋肉の血流が改善して柔軟性が戻り、長年こり固まったトリガーポイントがほぐれて、しびれや痛みが解消されてきます。
脊柱狭窄症で間欠性跛行(こま切れにしか歩けなくなる症状)になり、手術が必要といわれた患者さんが、トリガーポイントテーピングを行っただけで、その場でらくに歩けるようになるなど、その効果には驚くべきものがあります。
トリガーポイントテーピングは、やり方を覚えれば自分で簡単に行うことができます。ギックリ腰や肉離れのような急性の痛みにも著効を示します。悩んでいる人は、ぜひ試してみてはいかがでしょうか。
加えて患部を冷やす保冷材活用のテーピングストレッチも行えば坐骨神経痛も腰痛も首・肩痛も即座に軽快
●筋肉を伸ばしたままテープを貼るのがコツ
では、実際にトリガーポイントテービングのやり方を説明しましよう。
坐骨神経痛のある人は、お尻の筋肉にトリガーポイントの生じている場合が多いので「中殿筋テーピング」を、腰痛のある人は、背骨の両わきの脊柱起立筋に沿った「脊柱起立筋テーピング」を行ってください。
また、首や肩、腕にこりやしびれ、痛みを感じ頸椎症と診断された人はは、肩甲骨の内側にある菱形筋や肩関節を支える棘上筋にトリガーポイントが潜んでいる可能性が高いので、それぞれの筋肉に沿って、「菱形筋テーピング」や「棘上筋テーピング」を行うといいでしょう。
テービングのコツは、該当する筋肉を伸ばした状態(皮膚が張った状態)で、テープを軽く伸ばしながら貼ることです。そうすると、筋肉をもとに戻したさい、テープに横ジワが入ります。それが理想的な貼りぐあいになります。
もし、テープを貼ってしばらくしてもしびれや痛みに全く変化がない場合は、貼る位置がずれているかテープを伸ばしすぎている可能性があります。
何度か貼り直してみて、自分に合った貼り方を見つけてください。とはいえ、あまり神経質にならなくても、だいたいの位置にテープを貼ればテーピングの効果は得られます。
そして、テープは粘着力が続くかぎり二?三日は貼りつづけてから交換しましょう。ただし、肌の弱い人はかぶれる恐れがあります。かゆみを感じたら無理をせずにはがし、治まってからまた貼ります。肌の状態を確かめながら行ってください。
●冷やしてからテープを調貼れば効カアップ
以上は、トリガーポイントテーピングの基本的なやり方です。その効果をさらに高める方法もお教えしましょう。
それは、患部をいつたん冷やしてからテーピングするやり方です。一時的に冷やして血管を収縮させておくと、テービングをしたときに血流量が一気に増えるので、発痛物質が流されやすくなるのです。
当院では、医療用のアイスパックを使いますが、なければ市販の冷却スプレーや保冷材を利用したり、ビニール袋に入れた氷を布で包んで患部に当てたりしてもいいでしよう。
やり方としては、痛みのある部分を五分間冷やしたら五分間休ませる、これを二?三回くり返したあと、テーピングを行います。この方法は、慢性化した坐骨神経痛、腰痛などにも有効ですが、ギツクリ腰や肉離れのような急性の痛みにもとても効果があります。
また、テービングをしたままの状態でストレッチ体操を行うのも、テーピングの効果をさらにアップさせるのに役立ちます。筋肉のストレッチにも筋肉の血流を増して柔軟性を高める効果があり、一日に数回、気がついたときでいいので一分ほど行ってみましょう。
例えば、坐骨神経痛の場合は、お尻の中殿筋を伸ばすイメージで側屈して、中殿筋が伸びているほうの足を前後左右にゆっくり動かします。腰痛の場合は、前屈と後屈を交互に行い、脊柱起立筋を伸ばしたり縮めたりしましよう。
また、首・肩痛の場合は、腕を体の前で交差し、背中を丸めるようにして肩甲骨内側の菱形筋を伸ばしたり縮めたりすればいいのです。
トリガーポイントテービングに使用するテープは、ドラッグストアやスポーツ用品店、通信販売などで「キネシオテープ」という名前で各種市販されています。さまざまなサイズがありますが、ここで紹介したテーピングを行うには5センチ幅のものが使いやすいでしょう。ただし、テーピング用のテープには関節固定用の伸縮性のないテープも数多くあるので、購入するさいは間違えないようにしてください。なお、やり方を説明する写
真では、レオタードの上からテープを貼っていますが、実際には素肌に直接貼るのが正しいやり方です。衣類の上から貼っても効果が出ないので、注意してください。
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